1枚数百円で、あの日の教室の匂いを買っている
牛乳キャップを、また1枚買った。
ヤフオクで、手元のコレクションにないものが出品されているのを見つけた。こういう瞬間は、もうダメだ。わくわくが止まらない。数日かけて入札し、競り落とした。
値段は1枚数百円。決して安くはないが、高くもない。ちょうど、コーヒー1杯分くらいの値段である。……いや、高いのか?
届いた封筒は薄い。それでも、牛乳キャップは切った段ボールで挟んでしっかり梱包されている。郵送中に折れないようにという、出品者の配慮である。同じコレクター同士、そのあたりの気持ちはよく分かっている。
表には、どこかの小さな乳業メーカーの名前と、どこかノスタルジックなデザインが印刷されている。今はもう存在しない会社のものだ。
これを手に取った瞬間、当時の記憶が、思いのほか鮮明に戻ってくる。小学校の給食室から漂っていた匂い。アルミの食器がぶつかり合う、あの硬質な音。今や紙パックに置き換わってしまったが、昔の給食は瓶牛乳だった。そしてキャップは、紙のふただった。このキャップは、箸を器用に使って開けていた。うまく開けられず、こぼす同級生もいた。教室のざわめき、椅子を引く音、給食当番の号令。そういう、言葉にしにくい細部まで、ふっと蘇ってくる。
なぜこんなものに、大人になってからお金を払うのか。自分でも、うまく説明できない。ただ、隕石を買う億万長者や、消防車を買う富豪のニュースを見たとき、なるほどと思った。桁はまるで違う。それでも、やっていることの構造は、たぶん同じである。人にはそれぞれ、戻りたい場所があって、その場所につながる何かを、お金で買っているだけなのだと思う。自分の場合、それがたまたま牛乳キャップだった。隕石でも、消防車でもなく。
妻には、正直あまり理解されていない。「またその紙、増えたの」と言われることもある。子どもたちは、最初は珍しがって見ていたが、すぐに興味をなくした。まあ、それでいい。これは、誰かに共感してもらうために集めているものではない。
資産形成やFIREの記録ばかり書いていると、自分がずいぶん合理的な人間に見えてくる。S&P500の話をして、保険の要不要を計算して、贈与の金額を決めて。だが実際には、1枚数百円の紙切れに、小学校の教室の匂いを買っている人間でもある。
集めた牛乳キャップは、別に運営している牛乳キャップ図鑑(Milk Cap Archive)にまとめている。正直、FIREとは何の関係もない話題だが、ただ眺めているだけでも楽しいと思う。ぜひ見てみてほしい。
